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神戸地方裁判所 昭和39年(ワ)122号 判決 1967年7月17日

原告 摂津冷蔵製氷株式会社

右代表者代表取締役 井上二郎

右訴訟代理人弁護士 俵正市

右訴訟復代理人弁護士 弥吉弥

被告 摂津冷蔵株式会社

右代表者代表取締役 浅尾一雄

右訴訟代理人弁護士 奥村孝

右訴訟復代理人弁護士 阿部清治

主文

被告は、「摂津冷蔵株式会社」の商号を使用してはならない。

被告は、肩書地本店及び神戸市東灘区御影町字浜弓場所在の事務所、工場、倉庫において用いている「摂津冷蔵株式会社」の表示を抹消し、右表示のある標札および印章を廃棄せよ。

被告は、神戸地方法務局昭和三六年二月七日受付をもってした被告の設立登記中、「摂津冷蔵株式会社」の商号を他の商号に変更登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が昭和二二年一〇月八日、商号を「摂津冷蔵製氷株式会社」本店所在地を肩書地、営業目的を製氷、冷蔵物保管として、設立登記された会社であること、被告が昭和三六年二月七日、商号を「摂津冷蔵株式会社」、本店所在地を肩書地、営業目的を製氷、冷蔵として、設立登記された会社であり、神戸市東灘区御影町字浜弓場に製氷工場、冷蔵倉庫及び事務所を有し、本店及び右工場等において「摂津冷蔵株式会社」の表示を用い、同表示の標札及び印章を使用していることは、当事者間に争いがない。

ところで、被告の商号が原告の商号に類似するものであることについては多言を要しない。すなわち、両者の商号は、会社の種類を明示するにすぎない「株式会社」の名称部分を除くと、原告が「摂津冷蔵製氷」、被告が「摂津冷蔵」であるところ、そのうち「冷蔵製氷」及び「冷蔵」の各名称部分は、会社の業務内容を表示したものにほかならず、右表示自体に徴し、後者は前者の業務内容の一部を表示するにとどまるものであり、しかもいずれも頭書の「摂津」なる名称部分が両者同一であることは見るとおりであるから、被告の商号が原告の商号と区別すべきものをなんら有していないことは明らかである。なお被告は、被告商号中の「摂津」なる名称部分の選定の由来につき主張するが、商号の同一性ないし類似性の判断にあたっては、商号自体の表示にしたがって判断すべきであり、商号選定の事情は特に考慮すべきものではないから、かりに被告主張の事情が存在するものとしても、前示判断のさまたげとなるものではない。また被告は、実際取引上原告を「摂津製氷」、被告を「摂津冷蔵」と略称して、両者は識別されている旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。もっとも、≪証拠省略≫によると、原被告が加入している兵庫県冷蔵倉庫協会では、会員の倉庫利用状況を示す一覧表を作成するにあたり、従来原告を「摂津製氷」被告を「摂津冷蔵」と表示して記載していたこと、昭和四〇年五月頃からは事務取扱上、原告を「西宮摂津」、被告を「神戸摂津」と表示する慣わしになったことが認められるけれども、同証言及び本件弁論の全趣旨によると、かような取扱は、原被告の商号が極めてまぎらわしいので混同誤認することをさけるため、事務上便宜的に両者を区別する意味で行われているにすぎないことを窺知することができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、≪証拠省略≫によると、原告は設立以来、西宮を中心とし、阪神間において営業活動を行い、着々と業績を挙げ、業界においても信用を獲取してきていたところ、被告が昭和三六年二月に設立されて以来、原告の営業上の施設もしくは活動が被告のそれと混同誤認される場合が生じ、例えば、(イ)、被告設立の間もない昭和三六年四月頃、業界新聞に原告が御影町に工場を新設したかのごとき記事が掲載されたこと、(ロ)、昭和三八年一一月頃、株式会社楽天軒神戸支店から依頼された運送会社が被告と誤認して原告方に寄託物の返還を求めに来たり、また最近では、昭和四一年九月頃にも、徳島からのトラックが被告と誤認して原告方に寄託物の受取りに来るなど、再三に亘り原告は被告と誤認されることにより保管物の受渡に関し、関係者への問合せ等に事務上の手数をわずらわされていること、(ハ)、そのほか日常の電話呼出、照会においてしばしば混同されているので、原告は前同様に事務上の手数をわずらわされていること等があり、そのために原告の営業上の円滑な活動がさまたげられており、もって営業上の利益が害されていることを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。なお被告は、被告商号の選定、使用にあたっては原告の了解を得ている旨主張し、これに副うかのごとき被告代表者浅尾一雄の尋問結果が存するが、右は≪証拠省略≫に照して措信できず、ほかに右主張事実を認めるに足る証拠はない。

しかして叙上の事実関係に徴すると、被告は不正の目的をもって原告の営業と誤認せしむべき商号を使用する者であり、これにより原告はその利益を害されているといわなければならない。

そうすると、原告の本訴請求(択一的請求関係)は、他の請求につき判断するまでもなく、商法第二一条に基づく請求として、被告に対し商号使用の差止めを求めることはすでに理由があるというべきである。ところで、被告が前叙の次第で「摂津冷蔵株式会社」なる商号を使用することが法律上許されないのであるが、このことから被告が右商号の抹消登記手続をすべき義務が生ずるわけではなく、商法の建前上、株式会社である被告につき登記上その商号をなくしてしまうことは許されないものといわなければならないから、結局、被告はその商号を右使用を禁止された商号以外の商号に変更する登記手続をすべき義務があるものと解するのが相当である。なお右事理は、原告の本訴請求が、たとえ商法第二〇第一項もしくは不正競争防止法第一条第二号に定める要件を具備するものであるとしても、同様である。

よって、原告の本訴請求は、主文第一ないし第三項掲記の範囲内において理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用し、なお仮執行の宣言はこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田常雄 裁判官 仲西二郎 中山善房)

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